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この神話文学には霊的な創造物達もさることながら、英雄や王たちの伝説にも関連している。物語に登場する氏族や王国を設立した人物たちは、実際に起こったある特定の出来事や国の起源などの例証として、非常に重要であるという。この英雄を扱った文学は他のヨーロッパ文学に見られる、叙事詩と同様の機能を果たし、民族の固有性とも密接に関連していたのではないかと考えられている。伝説上の人物はおそらく実在したモデルがあったとされ、スカンディナヴィアの学者達は何代にも渡って、サガにおける神話的人物から実際の歴史を抽出しようと試みているのである。ウェーランド・スミス(鍛冶師のヴィーラント)とヴォルンドル、シグルズルとジークフリート、そしておそらくはベオウルフとボズヴァル・ビャルキなど、時折ゲルマンのどの世界で叙事詩が残存していたかにより、英雄も様々な表現形式で新たに脚色される。他にも、著名な英雄にはハグバルズル、スタルカズル、ラグナル・ロズブローク(粗毛ズボンのラグナル)、シグルズル金環王、イーヴァル広範王(イーヴァル・ヴィーズファズミ)、ハラルドル戦舌王(ハーラル・ヒルデタンド)などがいる。戦士に選ばれた女性、盾持つ処女も著名である。女性の役割はヒロインとして、そして英雄の旅に支障をきたすものとして表現されている。ゲルマンの民族が現代のような神殿を築くような事は、全く無かったかもしくは極めて稀なことであった。古代のゲルマンおよびスカンディナヴィアの人々により行われた礼拝の慣例ブロト(供儀)は、聖なる森で行われたとされるケルト人やバルト人のものと似通っている。礼拝は家の他にも、石を積み上げて作る簡素な祭壇ホルグで行われた。しかし、カウパング(シーリングサルとも)やライヤ(レイレとも)、ガムラ・ウプサラのように、より中心的な礼拝の地が少ないながら存在していたように見える。ブレーメンのアダムは、ウプサラにはトール・オーディン・フレイの3柱を模った木像が置かれる、神殿があったのではと主張している。

パンドーラーは結果的にエピメーテウスに、そして人間の種族に災いを齎し不幸を招来した。ヘーシオドスは更に、金の種族、銀の種族、銅の種族についてうたう。これらの種族は神々が創造した人間の族であった。金の種族はクロノスが王権を掌握していた時代に生まれたものである[65]。この最初の金の種族は神々にも似て無上の幸福があり、平和があり、長い寿命があった。しかし銀の種族、銅の種族と次々に神々が新しい種族を造ると、先にあった者に比べ、後から造られた者はすべて劣っており、銅(青銅)の時代の人間の種族には争いが絶えず、このためゼウスはこの種族を再度滅ぼした。金の時代と銀の時代は、おそらく空想の産物であるが、次に訪れる青銅の時代、そしてこれに続く英雄(半神)の時代と鉄の時代は、人間の技術的な進歩の過程を跡づける分類である。これは空想ではなく、歴史的な経験知識に基づく時代画期と考えられる。第4の「英雄・半神」の時代は、ヘーシオドスが『女傑伝(カタロゴイ)』で描き出した、神々に愛され英雄を生んだ女性たちが生きた時代と言える。英雄たちは、華々しい勲にあって生き、その死後はヘーラクレースがそうであるように神となって天上に昇ったり、楽園(エーリュシオンの野)に行き、憂いのない浄福の生活を送ったとされる(他方、オデュッセウスが冥府にあるアキレウスに逢ったとき、亡霊としてあるアキレウスは、武勲も所詮空しい、貧しく名もなくとも生きてあることが幸福だ、とも述懐している[66])。英雄の時代も去り、いまや「鉄の時代」となり、人の寿命は短く、労働は厳しく、地は農夫に恵みを与えること少なく、若者は老人を敬わず、智慧を尊重しない……これが、我々がいま生きている時代・世界である、とヘーシオドスは言う。このような人生や世界の見方は、詩人として名声を得ながらも、あくまで一介の地方の農民として暮らしを立てて行かねばならなかったヘーシオドスの人生の経験が反映しているとされる。世には、半神たる英雄を祖先に持つと称する名家があり、貴族がおり、富者がおり、世のなかには矛盾がある。しかし、神はあくまで善なる者で、人は勤勉に労働し、神々を敬い、人間に与えられた分を誠実に生きるのが最善である。

古典学者ピエール・グリマルはその小著『ギリシア神話』の冒頭で、「ギリシア神話」とは何を指す言葉かを説明している。グリマルは、紀元前9-8世紀より紀元後3-4世紀にあって、ギリシア語話圏で行われていた各種の不思議な物語、伝説等を総称して「ギリシア神話」とする[106]。これは甚だ曖昧な定義であるが、「ギリシア語話圏」という限定によって説明に意味が出てくる。この広範な神話圏はしかし、紀元前4世紀末または前3世紀初にあって内容的・形式的に大きな変容を経過する。一つのは文献学の発達と、書物の要約作成によってであり、いま一つは、生きた神々への敬神の表現でもあった詩作品などに代わる、娯楽を目的とした作品の登場によってである。"ギリシアの諸ポリスは、アレクサンドロスの統一とオリエント征服によって事実上消滅した。名目的に諸ポリスはなお存続していたが、それはもはや新しい文化や制度を生み出す生命を失った廃墟であった。アレクサンドロスはエジプトに自己の名を付けた新都を建設した。エジプトを継承したディアドコイの一人プトレマイオスはそこに世界最大と称されたアレクサンドレイア図書館を建造し、夥しい蔵書の収集に着手すると共に、ヘレニズムの世界に優秀な学者を求めた[107] [108]。今日伝存する多くの古代の文献・文書はこの時代に編纂され、あるいは筆写され写本として残ったものである。"図書館はアレクサンドレイア以外にもペルガモンなどが著名であった。図書館は鎖されていたとはいえ、高い評価を受けた作品は、筆写されて、教養人・貴族などに広がっていった。図書館は大量の書物について、その内容要約書をまた編集していた。長い原著を読むよりも、学者が整理した原著の要約を読むことで、無教養な俄成金などは自己の見せかけの知識を喧伝できた[109]。あるいは諸種の伝説について、主題ごとの見取り図を与えるために書籍が編纂された[110]。このような「集成」本のなかでも、もっとも野心的であったのが、紀元前2世紀のアテーナイの文献学者アポロドーロスのものと長く考えられていた、プセウド・アポロドーロスの『ビブリオテーケー』(ギリシア神話文庫)である[111]。

以上を踏まえた上で、この記事においては『古事記』、『日本書紀』などにより語られる「高天原神話」(記紀神話)に絞り、日本神話として解説を加えていくことにする。現在は、風土、風俗などの民俗学、考古学にもとづく研究などがおもにされている。また、日本神話の原形となったと思われる逸話や、日本神話と類似点を持つ神話はギリシャ神話など世界中に多数存在する。日本における古墳期-奈良期にかけての国の勢力関係をも知る上での参考資料ともなっている。その上でここでは、あくまでも神話として、或いは民俗学・考古学上の観点から、「高天原神話」について述べることにしたい。

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