創造神話の一覧とインド

フロイトの無意識の発見から淵源したとも言える深層心理学の理論は、歴史的に現れる現象とは別に、時間を超えて普遍的に存在する構造の存在を教える。カール・ユングは、このような普遍的・無時間的な構造の作用として元型の概念を提唱した。ケレーニイとの共著『神話学入門』においては、童子神の深層心理学的な分析が行われるが、コレーや永遠の少年としてのエロースは太母(地母神)としてのデーメーテールなどとの関係で出現する元型であり、「再生の神話」と呼ばれるものが、無意識の構造より起源する自我の成立基盤であり、自我の完全性への志向を補完する普遍的な動的機構であるとした[115]。ユングの深層心理学(分析心理学)や元型概念に強く影響されたのが宗教学者のミルチア・エリアーデであり、彼は歴史に対し否定的な態度からその理論を出発させる。エリアーデは前近代社会(古代社会)と近代社会を対比させ、後者は歴史的・世俗的な現実のありようを重視し、人間の立ち位置を社会の歴史的位置付けと相関させて把握するとした。他方、前者の古代社会は、歴史とは無縁な社会であり、寧ろ歴史を意図的に軽視する社会である。人間は近代社会の歴史性のなかにある限り、存在根拠が定かでなく、絶え間ない不安にある存在である。"しかし古代社会にあっては、世界と人間の起源が神話によって説明されており、人間の存在意味や社会の安定は、このような起源神話への依拠、起源神話の作用として実現しているともした。起源神話は、この20世紀にあっても、なお世俗的な歴史的社会と異なる次元で並列して存在しており、このようにして神話は人の実存的な存在に根拠を与える。西欧はキリスト教の神話で覆われているが、異教的要素がなおそこには存在し、ギリシアの古代の神話は非歴史的にキリスト教の進歩主義・歴史主義を乗り越える契機として存在してある[116] [117]。"

エジプト人の生活においてナイル川は重要な役割を果たした。そのため、神話でも多く登場する舞台の一つとなっている。例えばオシリスがセトに騙されて棺に封じ込められた後、ナイルに流されたという説話がある。ナイル川の洪水は”ヌビアの女主人”であるサテトによって起こされると信じられていた。そのため彼女はエジプトで崇敬の対象となった。ナイル川の増水とシリウスの運行に一定の関連があることが知られており、シリウス(ソプデト)も神としての尊敬を受けた。シリウスはイシスの魂と呼ばれており、このようなナイル川への関連性からサテトとソプデトは後に習合されるに至った。エジプト神話において、人間は肉体、バー(Ba)、カー(Ka・精霊)の3つの要素から成り立っていた。人が死ぬとバーは肉体から離れ冥界へ行くが、肉体がそのままであればカーがバーと肉体の仲立ちをしてアアルで再生できるとされた。そのため肉体の保存が必要となり、ミイラ作りが盛んに行われた。ちなみにバーは、人間の頭をした鷹の姿で現される。読んで字の如くヴェーダ文献に基づく神話であり、アーリア人がインドに持ち込んだインド・ヨーロッパ語族共通時代に遡る古い自然神崇拝を中心とする。紀元前1500年頃から紀元前900年ごろに作られた最古のヴェーダ文献である『リグ・ヴェーダ』(神々の讃歌)には、未だ一貫した世界観を持つ神話は現れていない。

デンマークでは、巻いた口髭が生え、口を閉じられているロキの絵が描かれたイメージ・ストーンがあるほか、複雑に入り組んだ絵が描かれたイギリスのゴスフォース十字架石碑もある。更に、隻眼のオーディンやハンマーを持つトール、直立した男根のフレイなど、神々を描いた小立像も存在する。司教などもゲルマン人の信仰に関する記述を残している。サクソ・グラマティクスは『デンマーク人の事績』の中でスカンディナヴィアの神々について触れ、ブレーメンのアダムは『ハンブルク教会史』を著した。またこれら北欧で著されたものの他に、1世紀ごろのローマの歴史家タキトゥスが著した『ゲルマーニア』や、イブン・ファドーランの『ヴォルガ・ブルガール旅行記』などにも、ゲルマン人の信仰に関する記述が残されていた。スカンディナヴィア人達は、この世に九つの世界があると信じていた。

ヘーシオドスがうたう第二の自然哲学的な世界創造と諸々の神の誕生は、自然現象や人間における定めや矛盾・困難を擬人的に表現したものとも言える。このような形の神々の誕生の系譜は、例えば日本神話(『古事記』)にも見られ、世界の文化で広く認められる始原伝承である。『神統記』に従うと、次のような始原の神々が誕生したことになる。まず既に述べた通り、コーラーとしてのカオス(空隙)と、そのうちに存在する胸広きガイア(大地)、そして暗冥のタルタロスと最も美しい神エロースである。ガイアより更に、幽明のエレボスと暗きニュクス(夜)が生じた。ガイアはまた海の神ポントスを生み、ポントスから海の老人ネーレウスが生まれた。またポントスの息子タウマースより、イーリス(虹)、ハルピュイアイ、そして三人のゴルゴーン姉妹等が生まれた。一方、ニュクスよりはアイテール(高天の気)とヘーメラー(昼)が生じた。またニュクスはタナトス(死)、ヒュプノス(睡眠)、オネイロス(夢)、そして西方の黄金の林檎で著名なヘスペリデス(ヘスペリス=夕刻・黄昏の複数形)を生み出した。更に、モイライ(運命)、ネメシス(応報)、エリス(闘争・不和)なども生みだし、この最後のエリスからは、アーテー(破滅)を含む様々な忌まわしい神々が生まれたとされる[32]。

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