創造神話の一覧とインド神話

しかし、イブン・ファドラーンの記述は実際には埋葬の儀式である。現在理解されている北欧神話では、奴隷の少女には「生贄」という隠された目的があったのではという理解がなされた。北欧神話において、死体焼却用の薪の上に置かれた男性の遺体に女性が加わって共に焼かれれば、来世でその男性の妻になれるであろうという考え方があったとも信じられている。奴隷の少女にとって、たとえ来世であっても君主の妻になるということは、明らかな地位の上昇であった。ヘイムスクリングラでは、スウェーデンの王アウンが登場する。彼は息子エーギルを殺すことを家来に止められるまで、自分の寿命を延ばすために自分の9人の息子を生贄に捧げたと言われる人物である。ブレーメンのアダムによれば、スウェーデン王はウプサラの神殿でユールの期間中、9年毎に男性の奴隷を生贄としてささげていた。当時スウェーデン人達は国王を選ぶだけでなく王の位から退けさせる権利をも持っていたために、飢饉の年の後に会議を開いて王がこの飢饉の原因であると結論付け、ドーマルディ王とオーロフ・トラタリャ王の両者が生贄にされたと言われている。知識を得るためユグドラシルの樹で首を吊ったという逸話からか、オーディンは首吊りによる死と結びつけて考えられていた。こうしてオーディンさながら首吊りで神に捧げられたと思われる古代の犠牲者は窒息死した後に遺棄されたが、ユトランド半島のボグでは酸性の水と堆積物により完全な状態で保存された。近代になって見つかったこれらの遺体が人間が生贄とされた事実の考古学的な裏付けとなっており、この一例がトーロン人である。しかし、これらの絞首が行なわれた理由を明確に説明した記録は存在しない。

しかし、このような特異な思想を語ったプラトーンはまた謎の人とも言えた。神話(ミュートス)を青少年の教育に不適切であるとする一方で、彼自身は自分の著作に、ふんだんに寓意を用い、真実を語るために「神話」を援用した[103]。ポリスの知識人階級のあいだでは、古来のギリシア神話の神々や英雄は、崇拝の対象ではなく、修辞的な装飾とも化した。こうしてアレクサンドロスがアケメネス朝を滅ぼし、みずからが神であると宣言したとき、「神々への崇拝」はポリス共同体から消え去った、あるいはもはやポリスはこのような宗教的情熱を支えるにはあまりにも変質してしまったのだと言える。神話(ミュートス)が備えていたリアリティは消失し、神話と現実の分離が起こった[104]。人々の敬神の伝統はそれでもパウサーニアースが紀元後になって証言しているようにアテーナイにおいても、またギリシアの地方や田舎にあってなお続くが、叙事詩や悲劇がうちに込めていた神秘、ギリシア神話の真実性はもはや回復することのない終演の場面に至ったと言える。ヘレニズムの洪水のなかで、古代ギリシアのアルカイクな真実は失われ、文献学者の死せる素材の収集と、哲学者たちの理性的問答のなかで、それは枯死したかつての大樹か、またはオウィディウスが提供する甘美な恋愛譚の背後に消えてしまった。アリストテレースはこうして「歌うたいが法螺をふいている」と著作のなかで断言した[105]。古代の最後の秋にあって、背教者の汚名を着せられたユリアヌスはいま一度古の神々を復活させようと試みた。しかし、すでに地上には新しい神々が、別の真理を伝えていたのである。古典学者ピエール・グリマルはその小著『ギリシア神話』の冒頭で、「ギリシア神話」とは何を指す言葉かを説明している。グリマルは、紀元前9-8世紀より紀元後3-4世紀にあって、ギリシア語話圏で行われていた各種の不思議な物語、伝説等を総称して「ギリシア神話」とする[106]。これは甚だ曖昧な定義であるが、「ギリシア語話圏」という限定によって説明に意味が出てくる。この広範な神話圏はしかし、紀元前4世紀末または前3世紀初にあって内容的・形式的に大きな変容を経過する。一つのは文献学の発達と、書物の要約作成によってであり、いま一つは、生きた神々への敬神の表現でもあった詩作品などに代わる、娯楽を目的とした作品の登場によってである。

ゼウスが成年に達すると、彼は父親クロノスに叛旗を翻し、まずクロノスに薬を飲ませ、彼が飲み込んでいたゼウスの姉や兄たちを吐き出させた。クロノスは、ヘスティアー、デーメーテール、ヘーラーの三女神、そして次にプルートーン(ハーデース)とポセイドーン、そしてゼウスの身代わりの石を飲み込んでいたので、順序を逆にしてこれらの石と神々を吐き出した。ゼウスたち兄弟姉妹は力を合わせてクロノスとその兄弟姉妹たち、すなわちティーターンの一族と戦争を行った。これをティーターノマキアー(ティーターンの戦争)と呼ぶ。彼らはティーターネスに勝利し、ティーターン族をタルタロスに幽閉し、百腕巨人(ヘカトンケイレス)を番人とした。こうして勝利したゼウスたちは互いに籤を引き、その結果、ゼウスは天空を、ポセイドーンは海洋を、ハーデースは冥府をその支配領域として得た[39]。しかしゲー(ガイア)はティーターンをゼウスたちが幽閉したことに怒り、ウーラノス(天空)と交わり、ギガース(巨人)たちを生み出した。ギガースたち(ギガンテス)は巨大な体と獰猛な気性を備え、彼らは大挙してゼウスたちの一族に戦いを挑んだ。ゼウスたちは苦戦するが、シシリー島をギガースの上に投げおろすなど、激しい争いの末にこれを打破した。これらの戦いをギガントマキアー(巨人の戦争)と呼称する。しかし、ゲーはなお諦めず、更に怒ってタルタロスと交わり、怪物テューポーンを生み出した。テューポーンは一時、ゼウスを捕虜にするなど、圧倒的な強さを誇ったが、オリュンポス神族の連携によって遂に敗北し滅ぼされた[40]。

ペロプスは神々の寵愛を受けてペロポネーソスを征服した。彼の子孫にミュケーナイ王アトレウスがあり、アガメムノーンとその弟スパルタ王メネラーオスはアトレウスの子孫(子)に当たる(この故、ホメーロスは、「アトレイデース=アトレウスの息子」と二人を呼ぶ)。アガメムノーンはトロイア戦争のアカイア勢総帥でありクリュタイメーストラーの夫で、メネラーオスは戦争の発端ともなった美女ヘレネーの夫である。アガメムノーンの息子と娘が、ギリシア悲劇で名を知られるオレステース、エーレクトラー、イーピゲネイアとなる。ミュケーナイ王家の悲劇に密接に関連するアイギストスもペロプスの子孫で、オレステースと血が繋がっている。他方、アトレウスの兄弟とされるアルカトオスの娘ペリボイアは、アイアコスの息子であるサラミス王テラモーンの妻であり、二人のあいだの息子がアイアースである。また、テラモーンの兄弟でアイアコスのいま一人の息子がペーレウスで、「ペーレウスの息子」(ペーレイデース)が、トロイア戦争の英雄アキレウスとなる[83]。リビュアーは雌牛となったイーオーの孫娘に当たっている。リビュアーと海神ポセイドーンのあいだに生まれたのがフェニキア王アゲーノールで、テーバイ王家の祖であるカドモスと、クレーテー王家の祖とも言える娘エウローペーは彼の子である。

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