カドーと諸文化における大洪水神話
アキレウスもまた、アガメムノーンなどと同様に、いまは忘却の彼方に沈んだその原像がミュケーナイ時代に存在したと考えられるが、彼は「神々の愛した者は若くして死ぬ」とのエピグラムの通り、神々に愛された半神として、栄誉のなか、人間としてのモイラ(定業)にあって、英雄としての生涯を終えた。彼の勲と栄光はその死後にあって光彩を放ち人の心を打つのである。ギリシア神話に登場する多くの人間は、ヘーシオドスがうたった第4の時代、つまり「英雄・半神」の時代に属している。それらは、すでにホメーロスが遠い昔の伝承、栄えある祖先たちの勲の物語としてうたっていたものである。彼らの時代がいつ頃のことなのか、神話上での時代の相関が一つにある。他方、考古学資料によるギリシア神話の英雄譚が淵源すると考えられる古代の都市遺跡や文化、戦争の痕跡などから推定される時代がある。英雄たちの時代の始まりとしては、プロメーテウスの神話の延長上にあるとも言える「大洪水」伝説を起点に取ることが一つに考えられる。
始原の神や、または神やその子孫のなかには、異形の姿を持ち、オリュンポスの神々や人間に畏怖を与えたため、「怪物」と形容される存在がある。例えばゴルゴーン三姉妹などは、海の神ポントスの子孫で、本来神であるが、その姿の異様さから怪物として受け取られている。ゴルゴーン三姉妹はポルキュスとケートーの娘で、末娘のメドゥーサを除くと不死であったが、頭部の髪が蛇であった。姉妹の三柱のグライアイは生まれながらに老婆の姿であったが不死であった。ハルピュイアイはタウマースの娘たちで、女の頭部に鳥の体を持っていた。ガイア(大地)が原初に生んだ息子や娘のなかには異形の者たちが混じっていた。キュクロープス(一眼巨人)や、ヘカトンケイル(百腕巨人)がいる。またガイアは独力で、様々な「怪物」の父とされる、天を摩する巨大なテューポーンを生み出した。エキドナは、上半身が女で下半身が蛇の怪物で、ゴルゴーンたちの姉妹とされるが出生には諸説がある。このエキドナとテューポーンのあいだに多数の子供が生まれる。獅子の頭部に山羊の胴、蛇の尾を持つキマイラ。ヘーラクレースに退治されたヒュドラー(水蛇)。冥府で番人を勤める、多頭で犬形のケルベロスなどである。またエジプト起源のスピンクスはギリシアでは女性の怪物となっているが、これもエキドナの子とされる。
第一の「世界の起源」を物語る神話群は、分量的には短い。それは、後述するように、主に三つの系統が存在する(ヘシオドスが『テオゴニア』で記したのは、主として、この「世界の起源」に関する物語である)。第二の「神々の物語」は、世界の起源の神話と、その前半において密接な関連を持ち、後半では、英雄たちの物語と絡み合っている。英雄たちの物語で、人間の運命の背後にあって神々の様々な思惑があり、活動が行われ、それが英雄たちの物語にギリシア的な奥行きと躍動を与えている。第三の「英雄たちの物語」は、分量的にはもっとも大きく、いわゆるギリシア神話として知られる物語や逸話は、大部分がこのカテゴリーに入る。この第三のカテゴリーが膨大な分量を持ち、夥しい登場人物から成るのは、日本における神話の系統的記述ともある意味で言える『古事記』や、それに並行しつつ歴史時代にまで記録が続く『日本書紀』がそうであるように、古代ギリシアの歴史時代における王族や豪族、名家と呼ばれる人々が、自分たちの家系に権威を与えるため、神々や、その子である「半神」としての英雄や、古代の伝説的英雄を祖先として系図作成を試みたからだとも言える[21]。
"その月の17日目に、方舟はアララト山の上に流れ着いた。 10か月め、その月の初日に、山の頂が見えた。 ノアが601歳になった年、最初の月、最初の日に地表が乾いた。次の月の21日目には地が乾き、ヤハウェはノアに方舟を離れるよう指示した。""洪水ののち、ノアは清い動物を供物にささげ、ヤハウェは、人間は幼いときから邪悪な性癖を持って生まれるのだからと、洪水で地上のすべてを破壊することは二度としないと約束し、自然の摂理を支えることを自身に約束した。 神はノアとこの契約を交わし、これにより人々はすべての動物に対する優越を与えられ、すでに命を宿していない肉を食べることを初めて許され、新しい法の元で地上に繁殖するよう指示される。新しい法とは、人が誰かの血を流したら、彼自身の血も流されなければならない、というものである。 ヤハウェは雲に虹をかけて、この永久不滅の契約の印とするとともに、のちの世代へのよすがとした。"『エノク書』(旧約聖書偽典)によれば、神は地上からネフィリムを抹殺するために、大洪水を起こした。ネフィリムとは、グリゴリと人間の娘の間に生まれた、巨大な子供のことをいう。